SSブログ

川島隆『カフカの〈中国〉と同時代言説 黄禍・ユダヤ人・男性同盟 』 [本の紹介]

川島 隆 著
http://franzkafka1883-1924.blog.so-net.ne.jp/2010-03-07-1
四六判 / ページ / 上製
定価: 2800 + 税
ISBN978-4-7791-1528-8 C0098
[2010年04月 刊行]
彩流社
http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-1528-8.html
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7791-1528-8.html

書評 http://franzkafka1883-1924.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07

内容紹介

現在、カフカの研究状況は世界規模で大きな転換を迎えている。とくに1990年代以降、文学研究の重点が文化研究へと推移したことを反映して、カフカ研究もまた、かつての神学的解釈や実存主義的解釈から、具体的な文化・社会現象との関係で多角的に作品を見る方向へと向かっていった。身体論や都市論にもとづく言説分析からカフカ作品の斬新な読み方を提示したM・アンダーソンの『カフカの衣装』(1992、邦訳:高科書店1997)や、同時代のプラハの知識人たちが民族問題にどう関わったかを扱ったS・スペクターの『プラハ領域』(2000)は、その好例である。

しかし日本国内に話を限れば、いまだにカフカ文学=実存主義文学というイメージが根強い。そのような状況下にあって、ともすれば社会に背を向けた文学として読まれがちだったカフカの作品を、同時代の社会的現実への応答として読み解くのが本書の目的である。特に、民族問題(反ユダヤ主義やシオニズム)とジェンダー(性愛や家族制度)の問題に対してユダヤ人男性としてのカフカがどのように応答したかを明らかにすることを通じて、これまで数多く論じられてきた「カフカとユダヤ」の問題系にも、新たな光を当てることをめざす。

その際、手がかりとするのは、カフカの中短編に描かれた「中国」と「中国人」のモチーフである。19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパでは、全般に東アジア文化の受容機運が高まっており、カフカも漢詩のドイツ語訳を熱心に読み、旅行記・小説・新聞記事などを通じて独自のアジア観を形成していた。長編と比べて軽視されがちなカフカの手紙や中短編に目を向けると、カフカが実は、全生涯にわたって「中国」「中国人」の像を自作中に描きつづけていたことが分かる。またS・ギルマンが『ユダヤ人の身体』(1991、邦訳:青土社1997)等で明らかにしたように、当時の西洋社会では、黄禍論や反ユダヤ主義の言説において、性的他者としてのユダヤ人=東洋人のイメージが流布していた。カフカにとって「中国人」とは、「ユダヤ人」としての自己イメージを仮託するのが容易な表象だったのである。ちなみに「カフカと中国」は、古くはベンヤミンやカネッティ、1980年代には東アジア系の研究者が好んで取り上げたテーマであった。ただ、そこではカフカの人と作品の「東洋的」な本質を取り出そうとする傾向が支配的で、かつてサイードが『オリエンタリズム』(1978、邦訳:平凡社1986)で提起した、「東」は西において言説として構築されてきたものだという視座は欠如していた。この点は、1990年代以降に活発化したポストコロニアル研究の立場からすると、批判が集まるはずの点であろう。本書では以上の流れを受け、西洋社会に生きたカフカがどのように「東」を構築したかという点に議論の焦点を合わせる。

なお、本書は2005年に京都大学大学院文学研究科(ドイツ語学ドイツ文学専修)に提出した学位申請論文「カフカ文学の中国・中国人像」(http://opac.ndl.go.jp/recordid/000007802313/jpn)に加筆修正したものである。財団法人ドイツ語学文学振興会2009年度刊行助成により出版。



目次

●『カフカの〈中国〉と同時代言説――黄禍・ユダヤ人・男性同盟』詳細目次

序章 漢詩を読むカフカ①
― フェリーツェへの手紙に見る中国人モチーフ ―
1.袁枚の『寒夜』――ハイルマン詩集より
2.ヨーロッパが見た中国――オリエンタリズムと女性嫌悪
3.カフカは「中国人」だった――研究史の視点
4.ユダヤ人と中国人

第一章 ドイツ語圏の黄禍論に表れた「男性の危機」
1.黄禍の図
2.「情けは無用、皆殺し」――ヴィルヘルム二世の黄禍論
3.オイレンブルク事件――ドイツ宮廷の同性愛スキャンダル
 4.カール・クラウスの『万里の長城』
5.混淆の不安――エーレンフェルスの黄禍論と「男性解放」論

第二章 漢詩を読むカフカ②
― 『ある闘いの記録』に姿をとどめた中国詩人たち―
1.「藪の中から裸の男たちが…」
2.男だけの世界
3.ハイルマン詩集の中国文化紹介――帝国主義批判と「詩人同盟」の図
4.李白の『江上吟』と「太った男」
5.杜甫の『渼陂行』と「祈る男」

第三章 『流刑地』のオリエンタリズム
― 植民地主義批判とシオニズムのあいだで ―
1.流刑地論争
2.ポストコロニアルなカフカ?
3.アナーキズムと女性嫌悪――思想家ミルボー
4.ミルボーの『責苦の庭』――オリエンタリズムと植民地主義批判
5.「男同士の絆」から「女性の抹消」へ
6.シオニズムの入口で

第四章 「こいつは途方もない偽善者だ」
― 中国学者ブーバーと中国人学者カフカ ―
1.マリーエンバートの中国人
2.父の視線――『中国人学者』と『判決』
3.中国服を着た息子
4.ブーバーの『タオの教え』――体験の伝達(不)可能性をめぐって
5.カフカのブーバー受容①「老子」対「荘子」

第五章 『万里の長城』とシオニズム①
― 「分割工事」方式で築く民族共同体 ―
1.「民族の輪舞」!
2.シオニズムの隠喩
3.カフカのブーバー受容②文化シオニズムの方向転換――宗教性から「労働」へ
4.ブーバーの宗教思想と「バベルの塔」
5.ランダウアーの無政府主義と「分割工事」
6.農耕民と遊牧民

第六章 『万里の長城』とシオニズム②
―シオニストの「労働」像に占める「男性」の位置―
1.結婚とシオニズム
2.シオニズム寓話としての『カルダ鉄道』
3.ユダヤ民族ホーム――シオニズムの「核心の問題」
4.荒野の男性同盟
5.『無産労働者団』とパレスチナ移住の夢

第七章 東方からの使者
―カフカが見たロシアとロシア革命―
1.「隣の州の反乱」――ロシア革命の影
2.女人禁制のロシア
3.「現在」に生きる――革命家ゲルツェンの回想録
4.新聞読者カフカ――古いメディア、新しい価値観
5.抹消される「現在」

終章 異郷の女ミレナ
― 晩年の中国物語と異民族「通婚」問題 ―
1.ミレナとの恋とロシア共産党礼賛(?)
2.共産党員とシオニスト
3.『拒絶』とゲルツェン回想録――「革命思想」の射程
4.『掟の問題』とラッセル論文――新しい「貴族」
5.『徴兵』に描かれた「通婚」の挫折
6.おわりに

あとがき
図版出典一覧
註・参考文献
索引

カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟

カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟

  • 作者: 川島 隆
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本



カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟


カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟


カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟





カフカの〈中国〉と同時代言説



カフカの〈中国〉と同時代言説



カフカの〈中国〉と同時代言説






共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。